大久保 勉 (民主党 参議院議員 福岡県)
 第一六五回国会 質問主意書と答弁書
国外で作成された歯科技工物の取扱いに関する再質問主意書
 
 私は、国外で作成された歯科技工物の取扱いに関する質問主意書(第一六五回国会質問第五号)(以下「前回質問主意書」という。)を提出し、去る十月十七日にその答弁書(以下前回答弁書)という。)を受領した。しかし、前回答弁書で示された政府見解に疑義があるので、再度、以下の質問をする。(平成十八年十一月九日提出)(提出番号第十九号)

内閣参質一六五第一九号
平成十八年十一月十七日
                        内閣総理大臣 安倍晋三

参議院議長 扇千景殿
 

 参議院議員大久保勉君提出・国外で作成された歯科技工物の取扱いに関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。
 参議院議員大久保勉君提出国外で作成された歯科技工物の取扱いに関する再質問に対する答弁書

 前回答弁書の「一について」では、平成八年度から平成十七年度の国外作成物の輸入量及び輸入金額については、把握していない旨を答弁している。しかし、薬事法第一条、同法施行令別表第一、関税法第七十条第一項の規定により、補てつ物及びその材料(以下「補てつ物等」という。)が医療用具であり、かつ輸入時において薬監証明が必要であるとすれば、当然輸入量及び輸入金額を把握していると思われるが、政府の見解を示されたい。なお、仮に補てつ物等が医療用具に当たらないのであれば、それらは法令上どのように分類されるか、明らかにされたい。また、補てつ物等は医療用具に当たるものの、薬監証明は必要でないのであれば、政府がそのように判断する理由も示されたい。
一について 
 御指摘の「薬監証明」は、治療上緊急性がある場合であって代替品が国内において流通していない場合に、医師又は歯科医師が自己の責任の下、自己の患者の診断又は治療に供することを目的として薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)に規定する医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器(以下「医薬品等」という。)を輸入する際などに、当該輸入が製造販売又は製造のために医薬品等を業として輸入するものではないということを確認するため、「医薬品等輸入監視要領について」(昭和五十七年四月八日付け薬発第三百六十四号厚生省薬務局長通知)の別添1「医薬品等輸入監視要領」に基づき、厚生労働省地方厚生局の薬事監視員がその旨を確認する行為のことを指しているものと考えられるが、補てつ物については、医薬品等には該当せず、同法による規制の対象外の製品であることから、輸入する際に「薬監証明」は必要としない。 また、補てつ物を作成する歯科材料(以下単に「歯科材料」という。)については、同法に規定する医療機器に該当することから、先に述べたとおり「薬監証明」を必要とする場合もあるし、必要としない場合もあるので、「薬監証明」では歯科材料の全輸入量及び全輸入金額を把握することはできない。 なお、輸出統計品目表及び輸入統計品目表を定める等の件(昭和六十一一年大蔵省告示第九十四号)の輸入統計品目表上、補てつ物及び歯科材料が分類され得る品目としては、人工歯(輸入統計品目表九〇二一・二一−〇一〇)、人工歯以外の義歯(同表九〇二一・二一−〇九〇)、歯用の取付用品(同表九〇二一・二九−〇〇〇)及び歯科用セメントその他の歯科用充てん材料(同表三〇〇六・四〇−〇一〇)があるが、これにより補てつ物及び歯科材料の全輸入量及び全輸入金額を把握することはできない。


前回答弁書の「二について」では、国外で補てつ物等を作成する者の知識及び技術の水準も様々である旨の答弁をしている。しかし、国外で補てつ物等を作成する者の知識及び技術の水準の分布を政府が把握していないとすれば、試験及び免許によって保たれている国内の歯科技工士の知識及び技術の水準より劣位にある者が、国外において補てつ物等を作成している可能性を、政府が認めていることにはならないか。政府の見解を示されたい。
二について
 歯科技工士の知識及び技術の水準は個々の歯科技工士によって様々であり、また、国外で補てつ物、充てん物又は矯正装置(以下「補てつ物等」という。)を作成する者の知識及び技術の水準も個々の者によって様々であるため、特定の歯科技工士と国外で補てつ物等を作成する特定の者とを比較した場合には、御指摘のような可能性がないわけではないが、いずれにせよ、政府としては、歯科医療の安全性の確保のために必要な措置を講じているところである。


 前回質問主意書三の「この通知が守られ、患者への説明が適時かつ適正になされているか」との問いに対し、前回答弁書の「三について」では、「個々の患者に対してどのような説明が行われているか等については承知していない」、「通知の周知徹底に努めてまいりたい」旨の答弁をしている。行政として当然課されている義務を履行する意思について述べることは無意味であり、個々の患者に対する説明状況の実態を把握する具体的な施策を行うべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
三について
 厚生労働省においては、先の答弁書(平成十八年十月十七日内閣参質一六五第五号。以下「先の答弁書」という。)三についてで述べたとおり、「国外で作成されたてつ物の取り扱いについて」(平成十七年九月八日付け医政歯発第〇九〇八〇〇一号厚生労働省医政局歯科保健課長通知。以下「通知」という。)を各都道府県に通知したほか、平成十八年十月十七日に同省のホームページに通知の内容を掲載するなどによりその周知徹底を図り、歯科医師から個々の患者に対して十分な情報提供が行われるように努めるなど必要な措置を講じているところであり、お尋ねのような施策を実施する考えはない。


 前回答弁書の「四について」では、「国外で作成された補てつ物等につき、老人保健法第六条第一項各号に掲げる医療保険各法による療養の給付又は同法による医療の対象となっていない」と答弁しているが、今後、政府は見直すか否か理由も付して見解を明らかにされたい。
四について
 国外で作成された補てつ物等については、老人保健法(昭和五十七年法律第八十号)第六条第一項各号に掲げる医療保険各法による療養の給付又は同法による医療(以下「療養の給付等」という。)の対象とすることについて歯科医師、患者等からの要望があるとは承知しておらず、現時点において、療養の給付等の対象とする予定はない。


 前回答弁書の「五について」では、歯科医師に対して指示書の交付義務が課されていない旨の答弁をしている。しかし、患者からすれば、自己の口腔に使用される補てつ物等について、いかなる指示が歯科医師からなされたかについて高い関心があるにもかかわらず、国内で作成する場合は指示書の交付を義務付ける一方で、国外で作成される場合は義務を課さないことは、政策として整合性を欠くのではないか。さらに、国外で作成された補てつ物等によって患者の健康に害が生じた場合、指示書の交付が義務付けられていないことから責任の所在が不明確となり、患者及び歯科医師に不利益をもたらしかねない。これらの問題点を踏まえ、指示書の交付を義務付けていない理由について政府の見解を明らかにされたい。また、歯科医師から国外における補てつ物等の作成者及び輸入者に対しての任意による指示書の交付状況について、政府としてどのように把握しているのか見解を示されたい。
五について
 歯科医師に対しては、国内において歯科技工士が補てつ物等を作成する場合を含め、歯科技工士法(昭和三十年法律第百六十八号)第十八条の指示書の交付が義務付けられておらず、政策として整合性を欠くなどという御指摘は当たらないと考える。また、お尋ねの「歯科医師から国外における補てつ物等の作成者及び輸入者に対しての任意による指示書の交付状況」については、把握していない。


 前回答弁書の「六について」では、国外で作成された補てつ物等について検査に係る法令上の規制は存在しない旨の答弁がなされている。しかしながら、例えば、食品衛生法第二十三条では輸入食品監視指導計画が定められ、輸入食品の監視が行われている。輸入食品と補てつ物等の取扱いに差異が生じている理由について、法令等の根拠の有無のみならず、政策の趣旨も含めて見解を明らかにされたい。
六について
 国外で作成された補てつ物等を歯科医師が患者に供する場合には、患者を治療する歯科医師が歯科医学的知見に基づき適切に判断し、当該歯科医師の責任の下、当該患者に対する危害の発生の防止に十分配慮した上で実施されるべきものであるため、国内で作成された補てつ物等と同等の品質及び安全性を担保するための検査を行っていないものである。 一方、輸入食品については、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)に基づき、不特定又は多数の者に対する飲食物に起因する衛生上の危害の発生を防止するため、同法第二十三条に基づき定められた「輸入食品監視指導計画」に従い、検査等を行っているところである。


七 薬事法第六十六条では、誇大広告について規制し、同法第八十五条及び第八十八条によって罰則も設けられているが、誇大広告を規制する理由について明らかにされたい。
七について
 薬事法第六十六条により、医薬品等に関する虚偽又は誇大な広告を禁止している理由は、医薬品等に関する虚偽又は誇大な広告による不正確な情報に基づき医薬品等を使用した結果、使用者が保健衛生上の危害を受けることを防止するためである。


 前回答弁書の「八について」では、「国外作成補てつ物等を歯科医師に提供する個々の業者がどのような広告を行っているかについては承知していない」と答弁している。補てつ物等と医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器(以下「医薬品等」という。)は、その両者の取扱いに差異が生じているが、補てつ物等についても、医薬品等とし、あるいは同法第六十六条の規定を援用するなど、誇大広告を規制するべきではないか。補てつ物等と医薬品等との取扱いに差異が生じている理由も含め、政府の見解を明らかにされたい。

 補てつ物等が医薬品等に含まれる場合、補てつ物等の広告において、「リスクゼロ」等の表現が使用されれば、薬事法第六十六条に違反するか否か、明らかにされたい。
八及び九について
 補てつ物の広告については、補てつ物が医薬品等に該当しないことから、薬事法第六十六条の規定は適用されない。 一方、歯科材料の広告については、歯科材料が医療機器に該当することから、それが虚偽又は誇大な広告に当たる場合には同条違反となるが、御指摘の「リスクゼロ」等の表現を使用する広告が同条違反となるか否かについては、個別具体的に当該広告が対象とする歯科材料の性状等も勘案し判断することとなるため、一概にはお答えできない。 広告に関する事項を含め補てつ物の取扱いが医薬品等と異なる理由は、補てつ物は、個別の事例に応じて歯科医師による適切な判断の下で特定の患者の歯科医療のために作成され、用いられるものであり、医薬品等のように一般に流通する可能性がないためである。


 本答弁書の「八について」では、「十分かつ正確な情報を収集することが必要と考えており」と述べているにもかかわらず、その方法については「今後とも、通知の周知徹底に努めてまいりたい」との行政として当然課されている義務を履行する意思を述べるにとどまっている。国外作成物の輸入量及び輸入金額を把握していないことや指示書の交付義務もない現況では、政府は、通知の周知徹底がなされているか否かの判断はできないと思われるが、通知の周知徹底のみで可能であると政府が判断する根拠を明らかにされたい。また、政府は、「十分かつ正確な情報を収集する」ために、「通知の周知徹底」以外の具体的な施策を今後どのように実行するのか見解を明らかにされたい。
十について
 先の答弁書八についてでは、「患者に十分な情報を提供する観点からも、国外作成補てつ物等を患者に提供する歯科医師において、十分かつ正確な情報を収集することが必要」と答弁しており、政府が十分かつ正確な情報を収集すると答弁したものではない。いずれにせよ、政府としては、御指摘の通知の周知徹底を図ることにより、歯科医師から個々の患者に対して十分な情報提供が行われるように努めてまいりたい。
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